始まりましたね

 「予言」と「予想」は区別するようにし、かつ前者には注意を払っています。未来を予測するのはどちらも同じですが、「こんな怖い未来が来るぞ、けど俺は対処法を知っているぞ、俺の言うことを聞けば(金を払えば)対処法を教えてやるぞ」というのが予言、「こういう未来が来る可能性があるから、とりあえずこうした対処が考えられます」というのが予想、と私家版(?)の定義を与えている。「予言者」の特徴は脅しの論理を使うことと、自分の側(業界)に利益を誘導しようとする点と考えています。予言者が跳梁跋扈するこの世界、人の心の不安に付け入る予言の言葉に心惑わされぬように、と心がけているわけです。他方時間のうちを生きる人間は「予想」はしないわけにはいきません。さらに言えば、適度な「予想」に基づく人生は豊かなものになると思います。

 もちろん「予言」と「予想」の区別は時に難しい。例えば、将来来ると高い確度で想定される新型インフルエンザを巡る言説は、どうしても両者の性質を共に帯びてしまうでしょう。事柄の性質上、仕方がないですね。こうした場合は情報に対する受け手の姿勢が大切、語られる事柄のうちで「予想」に当てはまるものを切り分けていくことが求められるのでしょう。

 ところで例のウィルスのワクチン接種が始まりました。後から振り返った時のために記しておけば、まさにこの数日で日本でもワクチン接種が始まったわけです。応対は様々ですね。私の狭い人間関係の中で仄聞する限りですが、期待を持つ人も多い反面、医療関係者でも接種を躊躇う人もいらっしゃる。それぞれの判断が尊重されるべきなのでしょう。私自身は他の家族と比べると人と接する機会が多いので、「大丈夫かしら?」という思いを多少は抱えつつも、まあ打つことになるでしょう。先日東京に住む老母と少し話したのですが、母にも「まあ打っといた方がいいよ」と言いました。それほど抵抗感がないのは、こけぐまさんの記事などの影響もあると思います。感謝しています。

 

 ところで今後状況がどう変化していくか、「予言」ではなく「予想」をしてみます。

 まず、日本の場合ですが、接種をする人の数が必ずしも増加しない、という状況が想定されます。とはいえ、夏が近付くにつれてウィルス自体の力が弱まり、またワクチンの接種の効果もあって感染者の人は減っていく可能性が高いでしょう。そうすると、人の活動範囲が拡がっていく。そして感染予防行動が弱まっていくでしょう。具体的にはマスクを外す人が必ず増えてくるはずです。また、ワクチンを接種した人のうちの少なからぬ人が、「私はワクチン接種済みだから」といってマスクなしで活動を始めるのではないでしょうか。この時出てくると思われるのが、何らかの理由でワクチンを接種していないが「私はワクチン接種済みだ」と主張し、危険ともとれる行動をとる人です。そうした事例によると思われるクラスターがもしかしたら散見されるかもしれない。この時ワクチン接種証明の提示を求めるのか否か、といったことが社会問題化するかもしれないと思っています。また、こうした事例が散見されると、小さな人間不信のようなものが拡がっていくのでは、と恐れます。ウィルスへの感染は仕方がないと覚悟している人でも、そのプロセスに「嘘」があると知ったら、やはり何とも不愉快な気持ちになるのではないか。

 もう一つ、かなりタイプの違う予想です。

 しばらくはワクチンを接種しない人に対する社会的プレッシャーはないと思います。ただ、ワクチン先行国である欧米で華々しい効果が挙がり、大きな経済的再生を見せたとき、状況は変わるかもしれません。経済復活の鍵はやはりワクチンだ、という認識が拡がった時、ワクチンを接種して当然、という空気が拡がっていくかもしれない、とは思うところです。そうなった時に私たちはどう振る舞うべきか、今のところ定見はないのですが、「そうした社会状況になるかもしれないな」とは思っておくことにしています(幸い外れるかもしれませんし)。

 

 しかし一番予想がつかないのは、コロナがだいぶ落ち着いた時の私自身の心理の変化です。やはり長い緊張状態にあったことは間違いがないので、その疲れがどっと出るのか、あるいは躁状態になって外をで歩くのか、よくわからない。しかし、この一年間出張などがなかったことは、ちょっと気に入ってもいるのです。どうしても話したい人とは話すことが出来ることもよくわかりましたし。コロナ前にはあれほど出歩いていた私がお部屋に閉じこもるようになるのか、それともそれなりに以前のリズムを取り戻していくのか、これが予想がつかないのですよね。ただ、いずれにしてもその過程では、これまでの人生では経験しなかったような心理状態を経験するのではないか、と「予想」しています。なにせ、人類史上で見ても、まあまあ珍しい一連の経過ではありますから。もしかしたら、戦争直後の一般市民の心理状態の変化や身の処し方が参考になるかもしれないなどと、漠然と思っている次第。不安定な心理状態に陥った時への備えとして、ここに書き記しておきます。

 

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