英文校正会社

二月から、夫と一緒にとある論文を書いています。私も夫も英語で書くよりも日本語で書くほうが、内容をよく揉むことができるため、最初に日本語で書いて次に英語に訳しています(二度手間なのですが、質を上げるにはどうしてもこのやり方になってしまうのです)。
最近ようやっと原稿が完成したので、同僚にみてもらってコメントをお願いする前に、英文校正に出すことにしました。
探してみると沢山あるのですね。そのなかから、比較的大手のE社を選んで、オーダーをしました(日本ではここともう一つがリーズナブルな校正で二大勢力なのではないかと思います)。
そこを選んだ理由は、以前にもっと軽い文章の校正をお願いしたことがあって、カスタマーサポートも校正の質も悪くない感じがしたからです。

ところが。

今回は論文なので、ある程度私たちの専門分野(システム神経科学)に近い校正者にお願いしたいと思い、校正者情報を送ってもらおうとしたのですが、ものすごく曖昧な情報にしかたどりつけません(イニシャル、国籍、学位の種類(学位取得大学がある場合もあるけど、学位取得都市とか国だけが書かれているケースも多い)、専門分野でシステム神経科学と書いている人はいない)。もう少し詳しい情報をくださいと、何度もお願いしたのに、送りますというだけで、一向に送られてきません。しびれを切らして、自分で情報を探してみたところ、なんと、たまたま校正担当予定者のフルネームとLinkedInページを発見しました(ファーストネーム神経科学の学位をテキサスで取得したということまではわかっていたのでそれで検索しました)。GoogleScholarやPubMedで彼女の名前を検索をしたころ、論文はでてきません。LinkedInから卒業した大学名が分かったので、名前と大学と学位の種類でグーグル検索にかけたら、彼女の学位論文が出てきました。そこで、彼女の専門分野は分子生物学系の神経科学であることが分かりました。
たとえ神経科学で学位をとっているとしても分子生物学系の人が読んだ場合には適切な校正ができない可能性が高いこと、また自分で論文を出版していないこと、さらに一度担当してもらったあとに、一日(非常事態が起こったから)、また一日(投稿レディにするのにもう少し時間が必要だから)と、締め切りをずるずるのばしてきたことをマイナスに判断して、結局、この会社は断ることにしました。(論文執筆中からのやりとりと含めると1か月、論文を渡してからのやりとりだと1週間の無駄になりました。)

 

E社とのグダグダのやり取りの最中に行きついたのは(E社とのやりとりをしながらこれはヤバいかもしれないと思って、ほかを探したのです)、小さいけど神経科学を専門とする校正会社Nです。論文を送って、校正を担当する人の名前と経歴を教えてほしいというと、社長のJさん(小さい会社なので社長が顧客対応)はすぐさま二人の名前を返してくれました。経歴をみたところ、二人とも、分野はシステム神経科学が第一専門分野で、論文もIFの高い雑誌に出版しています。

担当をお願いすることになるはずというLさんの名前でGoogle検索すると、彼女は別の校正会社Bでも仕事をしていることがわかりました。N社よりB社のほうが大手で、再校正無料サービスのプランがあります。N社にそれを伝えて、同じような条件でできないかと聞いたところ、こんな返答がありました。
「うちはとても小さな会社で、大企業が持っているようなリソースはありません。ですから、提供するサービスを減らさない限り(例えば、より軽い編集をする)、料金を下げることができないでしょう。また、私は編集者に適正と思われる料金を支払っていますが、それは大手の編集会社が支払う料金よりかなり高く、そこは妥協したくないので、残念ながらB社の料金には及ばないでしょう。品質については、私はB社と直接仕事をしたことはありませんが、他の大手編集会社と仕事をしたことがあり、その経験から、彼らの編集は同じような水準であると想像されますが、料金が安い分、我々ほど深くはない可能性があります(これは推測で、実際に自分で見たわけではないので何とも言えないのですが...)。」
すごく率直でまっとうな返信です(あとでわかったのですが、B社の再校正無料はもとの10%以内の変更までという制限がありました)。私自身はフリーランスで仕事をした経験もあるのですが、フリーランスとしては、こういう風に言ってくれる会社と仕事をしたいなと感じました。また、私がほかにした相談内容に対しても、「うちではそういうサービスはしていません」という簡単な回答もできたのに、いくつか現実的な案を考えて提案してくれました(Jさんに8年の研究経験があるからこそできる提案だったと思います)。こういうやりとりが決め手となって、N社に依頼することにしました。結果は、大正解でした。

約束の期日は5日目中だったのに、4日目の朝には仕上がった原稿が届きました。また、文字数が多すぎるので削減が可能そうなところは削減してほしいという依頼もしていたところ(Jさんによれば、本来は、リライトに近い作業なので、別料金で時間請求になるけど、積極的に削ってという風に伝えるね、と言ってくれてました)、10%も減らして、さらに減らせる場所の示唆もしてくれました。依頼主と校正者の間に入るのが、社長のJさんだけなので、やり取りがスムーズで、しっかりと意思疎通ができている感じがして安心でした。また、Jさんが考える適正料金は相場よりは高いとのことなので、わたしが校正者だったら、ここの仕事を優先にしかもしっかりやろうという気になるように思います。また、誰でもよいわけではなく、こういう内容の論文だから、あなたにお願いしたいと言われたら、やはり気合の入り方も変わる気がします。そんなわけで、すごく参考になる英文校正が帰ってきました。レベルの高い編集とか校正はかなり属人的な仕事だから、適切な人を見つけて、できるだけ中抜きの少ない形でお願いできたら一番いいと思いました。

 

今回、いろいろ探して面白かったのは、現代は、やり取りをする人の個人情報にかなり簡単にアクセスできるようになっていることです。
E社の校正者も、なんなら接客担当者も、N社の社長も校正者も、すべてLinkedInやFacebookTwitterで見つけることができました。そして、校正者を選ぶためには十分な、背景情報を得ることができました。
これまでは校正会社にほぼお任せ&運任せだった校正者選択を、こちらが調べることである程度コントロールできるのは、ありがたいです。
そして、これまで専門的な訓練と努力を積み上げてきた人の過去が目に見えるようになって、その結果、次の仕事につながる状況というのは、世界全体にとってよいことだと思います。

こけぐま