学習用の歴史マンガについて思うこと

 歴史をマンガで学ぶというのは、日本が世界に輸出してもよい教育方法ではないかと思う。これといった理論的根拠はなく、私個人が、マンガを通じて歴史に親しみ、歴史を好きになったというだけにすぎないが。なお、子どもの頃接したものがよかったおかげか、歴史上の人物を「さん付け」するほど愚かな人間にはならずに済んだ。

 私が子どものころ親しんだのは、和歌森太郎考証・解説の、集英社版『日本の歴史』全18巻だった。最初に購入したのが第4巻『源氏と平家の戦い』であったことは間違いない。自宅近くの書店で親に買ってもらって嬉しかったことは覚えている(記憶をねつ造している可能性もあるが)。ちょうどタイムリーだから記しておくと、恐らくは、まさに「鎌倉殿の13人」と同じ時代を扱う大河ドラマ草燃える」に夢中になっていた私を、父か母のいずれかが本屋に連れて行き、買ってくれたはずだ。その後は全巻揃えて何度も読んだ。このマンガを読みながら年表を自分で作ったこともある。日本史の大きな流れは確かにこのマンガのおかげで身についた。今でも、歴史上の重要な事項のいくつかについて、その気になればこのマンガのシーンを思い出すことができる。

 しかし、このシリーズの印象がよかったのか、その後に出会った類似の歴史マンガシリーズには、あまり満足できなかった。子どものために、集英社学習漫画『日本の歴史』、『世界の歴史』、ともに全巻揃えたが、どこかしら不満が残る。もちろん作り手の方は誠実にお仕事をなさっているだろうから簡単な批判は控えねばならないが、それでも、私が子どものころ読んだものより、内容が薄くなってしまっているように思うのだ。
 理由は二つ考えられる。
 一つには、相対的に文字情報が減ったことがある。やはり、この方が子供には良いのだろうか。また、学習指導要領の変化などを反映してかわからぬが、事柄の紹介がやや単調になっているようにも思う。歴史を貫く事象の複層性が見えにくくなり、一つのストーリーで物語を展開してしまっているような憾みが残る。
 もう一つの理由は、逆説めくが、マンガとしてのクォリティは上がっていることが挙げられる。コマ割りの工夫やマンガの劇的性質は、今のものの方が優れているだろう(私が子ども時代に触れたものにも、独自のユーモア感覚はあったが)。しかし、「マンガ」としてのクォリティが上がった結果、「〈歴史〉マンガ」という性質を弱めてしまっているようにも思うのだ。このあたり、学習漫画というジャンルの難しさなのでありましょう。

 そうしたわけで、私個人としては、「〈歴史〉マンガ」というジャンルは、私が子どものころ触れた和歌森太郎考証・解説版で頂点を極め、その後は衰退していると思っていたのである(なかなか酷い感想である)。
 もっとも、あるシリーズと出会い、この考えを改めねばならない、と思っている。件のシリーズは、角川まんが学習シリーズの『世界の歴史』全20巻。これまでの歴史シリーズと違うのは、グローバルヒストリーの発想を採用し、「横のつながり」を丁寧に扱っている点である。要は、例えばフランス革命の記述に際して、世界の他の地域との連関も意識して扱っていく、ということである。まだ全巻を読んではいないのだが、こうしたスタイルの強みは、例えばモンゴルの歴史を記述する際には、はっきりする。モンゴル帝国の膨張東西への膨張を、進出・侵略された地域の歴史と共に描くことで、読み手には事柄の連関が伝わりやすくなる(余談だが、これを読んでいて、カトリックの最初の中国宣教は1294年であると知った)。また、このシリーズでは、重複を厭わず、同じ事件について、複数の視点から描くようにしている。例えば、モンゴルのことを例にとれば、その西方への進出・侵略を、モンゴルの側からも西欧の側からも描いているわけだ。これはなかなか有効な手段であるように思う。
 私自身の世界史の復習もかねて、冬休みには、このシリーズを全巻読もうかなどとも思っている。

 ただ、先に述べた「最近の歴史マンガは少しやさしくなってはいないか」という指摘と矛盾するのだが、このシリーズ、小学生には少々敷居が高いかもしれない。このシリーズ、歴史の複雑さを結構そのまま子どもに差し出しているところがあり(それはそれでよいこととも言えるが)、挫折してしまう子どももいるかもしれない。子どもの歴史に対する興味を見ながら渡す方が良いのかもしれません。
 もっとも、逆に言えば、大学受験の準備などにも使えるかもしれない、ということも意味しています。

 

※12月9日記

 

M&M's


追記:余談ですが、私が子どもの頃読んだ和歌森太郎考証・解説版、インターネットで探してみると、一巻30,000円といった値段がついています。全巻でではなく、一冊で、です。私と同じように懐かしく思う、私よりお金持ちの方々が購入なさるのでしょうか。なお、子どもが小学生になった時に、万が一と思い自宅を探したのですが、やはり出てきませんでした。