その時その場に居合わせること

 色々と身辺に動きはあるのだけれど、それらについて思いを巡らしつつ書く、といった心もちでもない。そのうち書こうと思っていた事柄など。

 最近、「たまたまその場に居合わせること」についてあれこれ書いた。これと近い話題として、思いもかけぬところで知人と出会う、といったことがある。ある程度長く生きるとそうした機会も多少は増えてくる。「や~、偶然だね、嬉しいね」という楽しいものもあれば、お互い気まずい思いをするものもある。

 私の経験した偶然の出会いのうちで最も気まずかったのは、とあるちょっとした観光地でいずれも知っている既婚者同士が寄り添っているのとすれ違ったもの。たまたま人気が少ないところで、まさに向うから来るお二人と私とがすれ違ったのである。他の時なら相手には気づかれないように振る舞い、黙って自分の胸にしまいこむ。しかしこの時は、まさに相対する形となりそうもいかなかったが、しかしかと言って挨拶をするわけにもいかぬ。私が気づいているが気づかないふりをしていることを向こうもわかっており、そのことを今度はこちらもわかっている、という妙な感じとあいなった。それから後もお二人と話すことはあったが、あたりまえとはいえこの件に触れることはなかった。いや、ああした偶然の出会いはご免被りたい。

 これと似たものとして、たまたま友人と入った東京の繁華街の居酒屋で、知り合いのAさんとBさんが仲睦まじく飲んでいるのに出くわしたこともある。別に有名な店でもなかったのに。AさんとBさんは当時それぞれ別の人とつき合っていることを知ってはいたが、それぞれから別に「別れるかも」みたいな話を聞いていたのもあって、「なるほど、そういうことね」と思った。一応お二人から「しばらく黙っていて」と頼まれたので、その約束はしっかりと守りました。なおお二人はこの後結婚なさいまして、今も仲良く暮らしていらっしゃいます。

 

 ところで海外で偶然の出会いが続いたことがある。

 その時私は出張だったのだが、五日ほどの滞在だったのでその街に住む知人たちには特に連絡は取っていなかった。滞在中のある日、街を歩いていると、この街で働く友人と行き合ったのである。この友人、私の高校の後輩だが極めて優秀で、こちらで仕事を得て長い。傍らには美しいフランス人らしき女性がいる。彼女のことを気にしつつ、とりあえず日本語で、かくかくしかじかとその街にいる理由を説明、彼のほうは、ちょうど私たちの卒業した高校の先生 -共通の知りあい- がその街に来たばかり、という話を手短に聞かせてくれた。すると傍らの彼女、少し日本語がわかるのか、「えっ、するとこちらの方、貴方と同じ高校の人?」とフランス語で彼に聞くので、なんとなく私がフランス語で「ええ、長い友人ですよ」と言ったら、今度は彼女が吃驚して、「あら、あなたフランス語を話すの?」と返してきた。私がフランス語を解さないと思いこんでしまっていたのである。ともあれ彼女としては、自分の恋人の高校時代を知っている私に興味津々ということで、ぜひ私の家に遊びに来て、ということで、翌日お茶に招待してくれたのです。

 これだけでもなかなか偶然と言えるのだが、さらに続きがある。翌日彼女の家に行く前にちょっと調べごとをということで、その街で一番大きな図書館に行った。すると、ある児童文学者の展覧会をしていて列ができている。とはいえ次に来るのはいつになるかわからないので、おとなしく列に並んでいた。すると途中で、どうも知っている子にそっくりの少年がいる。私のフランス人の知人Xさんのお子さんで、ちなみにお母さんは日本人なのだが、この家族とは縁あって色々と深い付き合いがあり、このお子さん -Yくんとしよう- もよく知っている。このYくんにそっくりなのだ。よく似ているなと思ったら、彼が突然隣の本を読み耽っている男性に話しかけ、この男性がこちらを向いた。それがXさんだったのである。通常、児童文化者の展覧会で親子連れの知人と会う、というのを偶然に入れてよいのかはわからないのだが、違う国でのことともなると、なんとも印象が違う。

 こうして私は二日連続で、思いもかけず知人と偶然の再会、あるいは出会いを果たしたわけなのです。同じ街に住んでいるのなら、まあそんなこともあるかもね、といった話題でしょうが、海外の短期滞在時に、その街に住んでいる友人とはいえ偶然の出会いが重なると、なんとも不思議な気持ちになるものです。私の人生の中で心に残る偶然の出会い、というと、この「海外」という道具立てもあってか、これが一番になるのですよね。

 皆さんにはこうした偶然の出会い、どのようなものがあるでしょうか?

 

M&M's

 

追記:全く関係のない追記です。ちょいと酒量が増えてしまっている。色々ひと段落してほっとしているのもあるけれどよろしくない。と言うわけで、まずは三月中、一人の時は飲まないようにいたします。自分一人の胸のうちにしまうと絶対破るので、ここに宣言。ただし、遠隔飲み会とか、Webでの会議の後の軽い打ち上げなどはOKといたします。皆さまからの遠隔飲み会の誘いも大歓迎(笑)。とはいえ、この場に居合わせてこの記事を読んでしまった私の知りあいの皆さま、適度に「ちゃんと飲まないでいる?」とプレッシャーをかけてください。