京都での散歩

 先日出張で京都に行き、移動の前に少し時間ができたので、京都郊外を散歩したくなった。京都に住んだことはないが、大原や貴船、鞍馬、あるいは逆に宇治の方にも行ったことがあるので、訪れたことがないところにしようとしばし思案、比叡山に登ろうと、朝、それなりに早い時間に、京都は繁華街のホテルを後にした。

 ところが、叡山電鉄八瀬比叡山口を降りると、どうも勝手が違う。観光に向かう人が全くいない。とりあえず、と思い、ケーブルカーの駅に向かうと運休となっている。慌ててスマートフォンで調べると、確かに冬季は運休とのこと。愕然としてしまった。(ちなみに、京都在住の友人も、このケーブルカーが冬季は運休であることを知らなかった。そもそも、比叡山のHPに、このことを書いてくれても良いのではないか、と思うのだが、それは甘えだろうか?)

 

 もっとも、落ち込んでばかりもいられない、というか、落ち込むほどのことでもない、と気持ちを切り替えるのは、それほど難しくなかった。幸い梅もほころび始めている初春の陽気、のんびりと目的もなく散策をするには良いきっかけ。

 こうして私は八瀬の界隈を、ほぼほぼ叡電に沿いながら初めて散策することとした。まずは崇道神社を覗いた後、蓮華寺へ。平日の朝、訪問客は一人だけで、素晴らしい庭を一人でじっくりと眺め、普段は得られない時間をすごすことができた。蓮華寺のことは知らなかったのだが、素晴らしい庭と思う。蓮華寺の方と「素晴らしいお庭ですね」とお話しした後、この方に教えていただいた三宅八幡宮に向かい、そこから三明院を経て南下、白川通沿いを歩き、途中東に向かって、十年ぶりほどとなろうか、詩仙堂を訪れた。平日の午前中は、やはり人が少ない。詩仙堂はこれまで五~六回は訪問していると思うが、今回が最も人が少なかった。あのお庭を「独り占め」している、という感覚は、なんともいえず贅沢なものだ。

 この後、以前訪問した金福寺に行こうかとも思ったが、これは冬季で閉まっており(2月の京都は人が比較的少なくてよいが、こうしたことがあるようですね)、代わりに、未訪問の狸谷山不動院まで行ってきた。これ、歩きだと本当にいい運動になります。

 ここでタイムアップとなり、バスで繁華街に戻って荷物をピックアップの上、次の目的地に移動。

 これといったオチはなく、自分の備忘録ではあるのだけれど、初春の京都をあてもなく歩くというのは、この上なく贅沢な経験だった。例えば定年後といった、事実のんびりした毎日の中でではなく、それなりに慌ただしい日々の中で、ふっと凪のようにこうした時間が訪れたことが、一段と、僥倖のように思えたのだった。

 

M&M's

(2月19日記)

蓮華寺の庭

詩仙堂