気分転換としての月刊誌

 なかなか慌ただしい毎日で、ついつい目の前の仕事のことばかり考えてしまう。集中している、と言えば聞こえがいいが、捉われているとも言える。そうなると実際には仕事の質も下がってしまう。これを避ける手段は色々とあるが、それほど長くない、かつそれなりに意義があるものを読むのがよい。気分転換にもなるし、普段とは違う情報に触れれば脳がリフレッシュしたように思う。飲酒時の後のように「無駄なことをしてしまった」という罪悪感に悩むこともない。

 そうした読み物としては短編小説があるだろうが、こちらは当たり外れが大きい。読みなれたエッセイなどは間違いがないが、新しい情報を得られない憾みは残る。そう考えると、適度な長さの記事を多く含む月刊誌は、新しい情報を得つつリフレッシュするという意味ではなかなか悪くないのではないか。千円程度というと安くはないようにも思うが、立ち止まってみれば、あれほどの情報にこのお金で触れることができるのはありがたいことだ。

 というわけで、私はたまに(といっても年に五、六回ほど?)月刊誌を買ってきて気分転換をはかる。

 先だって芥川賞受賞作(「東京同情塔」)が掲載されているということで、『文藝春秋』を買いに行ったところ、隣にあった『中央公論』の表紙に出ている特集のタイトルが面白そうだったので、つい二冊とも買ってきた。

 前者については、色々と面白い記事があったが、わけても柳田邦男「JAL乗務員緊迫の証言 ー羽田衝突事故の死角 前編」は充実していた。例の1月2日の事件を巡るルポルタージュだが、複数の動画による記録やインタビューをもとに、冷静に淡々と事実のみを記述し、その上で、「奇跡」とも呼ばれる脱出を可能としたJALの体制を説明し、加えてさらなる改善点を提案するものだ。この件を巡り、特にペットの件を巡り数多くの煽情的な(そして、はっきり言えば無駄な)言葉が数多く交わされたが、そうした議論に過剰に入れ込んだ人は、この記事を読むとよい。

 しかし、柳田邦夫、87歳にしてこの筆力なのですね。スタイルが完成しているのが理由だろうが、それにしても驚かされる。彼の名は、中学の時に『空白の天気図』を教師に勧められて知った(中学生にこの書を薦めた教師 ー候補は三人ほどいるが、誰だか確実には覚えていない- を尊敬する)。冷静な筆致に心惹かれつつも、後は『マリコ』と『犠牲』くらいしか読んでいないはずだが、久しぶりにそのお名前を拝見して、懐かしい心地に誘われた。

 『中央公論』については、特集「大学と生成AI」で、この問題を巡る様々な声に触れることができる。現状での、大学の教育現場での生成AIを巡る問題を総覧するには良いのでは? ただし、折角の機会なのだから、レポート作成などでの生成AI使用の推進派と懐疑派での討論があると、一段と面白いものになったと思う。こうした場合の常として、意見を同じうしている人同士の議論というのは、優れたものであれ、閉じている、という印象を微妙に与える。

 その他、この『中央公論』3月号では、「新書大賞2024」の決定に際しての新書の特集が面白い。何か手軽な本が読みたいけれど、どの本がよいか迷っている、という方は、この特集を読むとよいかもしれません。

 余談だがこの中で、とある評論家がお勧めの新書を五つ挙げる中で古賀太『永遠の映画大国 イタリア名画120年史』に関し、「イタリア映画のことを何も知らない人間が堂々と推薦文を執筆していることが、相当に笑える」と、攻めに攻めたコメントを付している。ついつい気になって検索をかけてみると、ああ、多分こういうことなのね、と事情がすぐわかった。この評論家、私、嫌いではないのだが、時々こういう嫌味を飛ばすのがいただけない。実名を挙げて万が一検索に引っ掛かった時が面倒なのでその名はここでは記さないが、気になる方は同誌182頁最上段をご覧ください。

 

M&M's

 

(3月2日執筆:遅れに遅れていますが、仕事に追われているだけで、精神的には(多分)元気です)