白菜のことなど

 白菜の季節だ。スーパーに行くと立派なものがいくつも並んでいる。

 白菜は好物だが、ちょっと「苦い」思い出がある。

 以前も書いたように、20年ほど前に夏に山籠もりをしていた時期がある。一人だったので、食事はシンプルに、朝はトーストとサラダ、昼はレトルトの丼もの、夜は鍋に酒2合、最後に雑炊と決めて、これを続けていた。食材については、数日~一週間に一度の割合で買い出しをし、野菜については、近くに直販の店を重宝していた。何度も通えば顔なじみにもなる。販売担当の初老の女性と挨拶を交わす中になっていた。

 9月も半ばだったか、高地なので白菜が既に売り出されており、一株100円で出ていたのを、つい私は買ってしまった。この時点でどうかしているのだが、件の販売の女性に、「もう一つ持って行きなさい、サービスしておくから」と言われて、私は結局、100円で手に入れた白菜二株を抱えて帰宅することとなったのだ。あの女性のお気持ちには感謝しているが、しかし、私を何人家族だと思っていたのだろう?

 鍋に入れるだけでは当然足りず、知人に教えを請うて、蒸し物やらなにやら色々と試したが、当然二つも消費できない。かくしてある日、山小屋の庭に穴を掘り、傷みはじめた白菜を埋めることとなったのである。食べ物をあまり無駄にしたくない私としては、あれは「痛恨」の経験であった。

 以来、白菜を見ると、二株100円より安い物はないだろうかなどと値段を眺めつつ、あの時の「苦い」思いをほんのりと思い出すのだ。

 

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