不可知論を濫用されてはたまらない

 知人がお子さんのことで、学校の先生と話し合いをしてきたそうだ。
 そのお子さんは昨年から、同級生に嫌がらせを受けているとのこと。親としてはそれなりに衝撃的な事例が続いたそうだ。ある事例では、嫌がらせをしている同級生は最初しらを切ったそうだが、目撃していた子どもがいたため、その子の仕業と発覚したという。
 どの件でも、先方の家庭からの謝罪はないとのこと。担任の先生は先方に事案を伝えたということだが、そうだとすれば、相当の家庭と疑わざるを得ない。コロナの状況ということもあり、先生に過重な負担をかけては申し訳ないと考え、あまりあれこれ要求しなかったそうだが、この件は後悔しているそうだ。先方の家庭と話し合いの場を設け、明確に謝罪を求める場を設定すべきであったと言っている。
 そして、その後も嫌がらせは続いているそうだ。嫌がらせの動機について知人は、ある程度根拠をもって推測しているが、ここではそれは記さないこととしておく。

 そして先日、この嫌がらせの件とは直接は関係のない事柄で、そのお子さんに被害が及んだのだが、その後も、そうした加害者が一緒になって、そのお子さんの陰口を言っているという(そのあたりのお子さんの証言は信頼できるそうだ -こうした件で嘘をついてばれると、後で大きな不利益になって自分に跳ね返ってくると固く言い聞かせているとのこと)。
 知人はここでついに堪忍袋の緒を切らして、学校と相談とあいなった。
 詳細は避けるが、とにかく、嫌がらせをする生徒に対し厳しい指導を行えないという点は、やはり問題ではないか、と訴えたそうだ。

 すると先方の先生が、「すると、Xさん(知人のお子さん)は、Aさん(嫌がらせをする子)が自分に嫌がらせをしていると感じているのですね」と何度か言ってきたという。「感じている」というところに力点があるという印象を覚え、知人は次のように話したそうだ。
 「先生が「感じている」という言葉を用いることで、とりあえず私の子の主観の問題の可能性を示唆なさろうとしていることはわかります。お立場上もわからないではありません。しかし、昨年から様々な事件が続いた後で子どもの主観の問題となさろうとするのは、私としては納得がいくわけがありません。」

 

 この話を聞きながら、おぼろげながら現代の問題の一つが見えてきたような気がした。
 現在、家庭も多様化し、そして子どもの性格も一段と多様化する中で、争いの種類も一層増えてきている。そうした中で、学校は、一概にどちらの側につくこともできない。だから、生徒間の争いに関しては、とりあえず、「両方の言い分を聞く」ということになっているのだろう。これはいい、というか認めざるを得ない。しかし、「両方の言い分を聞く」ことが、結局は「両方を対等に扱う」ことになってしまっているように思う。そして、事情を細かく知ることはできない、という不可知論に依拠しながら、被害者にはとりあえず我慢してもらい、加害者には軽い叱責で済ます、ということでお茶をにごす事態が常態化してはいないか、という深い疑念が残る。確証がない場合は、こうした「不可知論」を用いるのも仕方がない。しかし、知人のこの件のように極めて蓋然性が高い、あるいは確実な証拠がある場合でも、加害者に対して、厳しい叱責ができなくなっている。私にはこれは、不可知論の濫用にしか思えない。あるいは、仕事を減らすために、不可知論に逃げ込んでいるように見えてしまう。しかし、十分な叱責を受けなかった人間は、自分のわがままが通ると思い、ますます(しばしば陰湿な形で)自分のわがままを通すようになると思う。義務教育の過程で然るべき叱責を行わないのであれば、そのつけを社会が支払うことになるのではないか。
 事柄の複雑さのゆえか、まとまりはつかないのだが、今後のためにも記しておきたい。この件、あるいはこうした件を巡る問題については、いつの日か、まとめてみたいと思っている。混乱した文章を残すことを、お許しください。

 なお、二つ追記を。
 一つは、学校の先生の立場の難しさはよくわかる、ということ。上で述べたような理念を実現するには、先生方に対する家庭の理解と信頼が必要だろう。
 もう一つ、そうは言っても書いておきたいのだが、不可知論を濫用して問題を矮小化する手段の一つとして、「いさかいの種を被害者の主観の問題にする」のはやめた方がよかろう。ハラスメント問題を議論する際のキホンのキとして、「被害者の感じ方を重視する」というのがある。もちろんこれが濫用される危険がないとは言わないが、だからと言って、ある程度客観的な状況証拠がある際にすら、「いさかいの種を被害者の主観の問題にする」手法を使われてはたまらない。考えを進めるために、この点は、やはり記しておきたい。

 う~ん、しかし、あまり愉快な話題ではないな。色々と考えさせられる話だったのであれこれ書き連ねてしまいましたが、すいません。

 

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