そのうちしてみたいこと

 そのうち、と言っても一年か二年ほどの間にしてみたいことがある。「私にとっての短編小説ベスト10」を選ぶ、という作業。

 前提としておさえておきたいのだが、これ、「私にとっての長編小説ベスト10」よりもかなり難しいのではないか。いわゆる「ベスト10」に入るような長編小説というのは数がある程度限られているように思う。相対的には、候補が少なくなろう。自分がそれなりに読み終えている長編小説というのは、多分、多く見積もっても300くらいではないかしら(多分、これでも相当サバを読んでいると思う)。そのうちから「ベスト10」を選ぶなら、まあどうにかなるだろうし(そもそも記憶に残っているものは、相当に少ないだろう)、そのうちの五つか六つくらいは、他の人も「ああ、タイトルと粗筋はなんとなく知ってるよ」と言いそうなものとなり、コミュニケーション・ツールの役を果たす気がする。このあたり、世に数多漫画はあれど、「私にとってのベスト5」くらいが、酒席の話題になり得る理由と同じ理由によるかと思う。

 しかし、短編小説はそうはいかないように思う。候補作が圧倒的に長編小説より多くなりはしないだろうか。そして、そうした中から自分なりの「ベスト10」を選んだとしても、既に読んだのに忘れており、挙げていないものがあるのではないか、と、落ち着きのなさが残る気がする。また、挙げたところで、他の人が知らない可能性は高い。だから、頑張って選んでも、コミュニケーション・ツールの役は果たさないのではないか。

 ただし、反面、候補作が多く、自分の趣味が徹底的に反映した、まさに「自分ならでは」の「ベスト10」を選ぶことが出来そうな気がする。その意味では、手間暇かけて取り組んでみたい作業でもある。

 

 とはいえ、パッと思いつく候補は、確かに心に残る作品とはいえ、私的で個性的というよりは、かなり「教養主義的」になる(悪い意味です)。

 恥を忍んで書き記せば、芥川の「或る日の大石内蔵助」だとか、中島敦の「弟子」(凡庸な選択であるのは百も承知!)、佐藤春夫の「美しき町」あたりは候補に入れたくなる。少々毛色が変わるが、久生十蘭の短編からも一つ、二つ、選んでみたい。そうした連想でいけば、推理小説やら、「ナポレオン狂」のようなショートショート系に近いものも入れたくなってくる(ただ、このあたりは別ジャンルにした方がよいかもしれない)。

 とはいえ、こういったものは「私家版」を作る喜びもあるが、他の人と共有してかたらう喜びもある。その意味では「この中から選びましょう」と母集団を決めてみるのも良いかもしれない。例えば、安野光雅瀟洒な装丁が印象的な「ちくま日本文学全集」全40巻から選んでみる、というのはどうでしょう? すべてが短編ではないでしょうが(詩人もいますものね)、相当数の短編が入っているようにも思います。まずはあれを二年くらいかけてすべて読み(引退後なら一年か)、その中からベストの短編を10選ぶ、というのは楽しいかもしれない。

 忙しい皆さんをお誘いする、というわけにはいきませんが、もしも「その枠組みでやってみよう」という方がいらっしゃったら、ぜひぜひお声をおかけください。もちろん、別の枠組み(別の母集団を決めるということね)でも大歓迎です。

 

 こんなふうに書いておきながらなんですが、私にとって今のところ、短編小説のベストは決まっていて、モーパッサンの『脂肪の塊』でございます。あの完成度は尋常ではなく、空恐ろしくすらある。ただ、あの長さだと、もう、中編になってしまうのかしら?

 

(※12月7日記)

 

M&M's