はのはなし

 直接のお知り合いはご存知だが、私の歯は決して美しくない。というか、端的に美しくない。自覚は当然ある。歯並びはもともと悪いし、加えて、若き日の飲酒・喫煙その他の影響もあってますますお見せできないものとなってしまった。思えば十代の時に、せめて矯正はしっかりとしておくべきであった。親が折角金を出してくれたのに、私はこれに失敗したのである。情けない。

 一時期は虫歯やら何やらで結構な思いもした。歯並びが悪いと、どうしても虫歯にはなりやすいようだ。

 しかし、ここ十年ほどは全くトラブルがない。今住む地域に越してきて六年ほど経つが、越したころ、家人が近隣で良い歯科医を見つけてきた。年に二、三度、しっかりと歯のメンテナンスをしてくれる、というタイプの歯科医である。家人の厳命で訪問した最初の診察時こそ、それなりに時間をかけてメンテナンスをしてもらったが、その後は、歯科医の先生や衛生士の方が驚くほど何もない。私はたまに呑んでそのまま歯を磨かずに寝てしまうこともあるのだが、その影響はかけらもないようだ。もう顔見知りといってよい衛生士の方に、いつも「歯周病なども、大丈夫です。磨き方が良いのでしょうね」と言っていただく。顔から火が出る思いがする。「いや~、適当ですよ」とかなんとか、もごもご言っているが、要は、思い当たるところがないのに褒められて、どう振舞ってよいのかわからないのだ。

 そういえば、こちらの歯科医の先生とお話ししていた時に戯れに、「ほら、私、こんな歯並びじゃないですか。それで昔、知り合いの歯科医に診てもらったときに、『M&M'sくんは、頭の偏差値は知らんが、歯の偏差値はたいそう低いね』と言われたことがあるんですよ」(こう書いてみると、なかなか酷い言葉である)、とお話ししたら、「いやいや、要はちゃんとしっかりものを噛める歯がどれくらいあるかと、歯周病かどうかがポイントですから、今のM&M'sさんの歯は、年齢を考えれば本当に立派なものですよ」と言っていただいた。営業トークかもしれないが、悪い気はしない。多少とも歯を磨こうという気になる。

 歯のことは(も)かけらもわからないけれど、要は、ある意味で「よい」歯なのだろう。見かけはいまいちだが機能性は悪くないというのは、年齢を考えれば十分満足に値する。あとは、一日に一度(できれば二度)はある程度丁寧にフロスをしているのと、マウスウォッシュがよいのかしら。まあ、なんにしても身近な「歯」について悩みが少ないのはよいことだ。

 

 芸能人のような見事な白い歯であればな、と思うこともかってはあったが、望んでよいこととそうではないことの区別も多少はつく年齢になってきた。見てくれはよくないが、「質」は悪くないらしい。残りの人生、大切に付き合っていきたいものである。そう思えるのは、ありがたいことだ。

 

M&M's