図書館の話(7)

 前回『税金で買った本』に触れたけれど、これはなかなか優れた漫画と思う。フィクションなので夢物語めいたところもなくはないが、総じて図書館の「リアル」をよく描いているのではないか。主要登場人物に、ちょっととんがった高校生を持ってきたのも成功の理由だろう。
 図書館を舞台とした漫画というと、他にもいくつか浮かぶ。
 すぐに出てくるのは、児童書を扱う私立図書館を舞台とした『図書館の主』だろうか。こちらも少々現実離れしたところはあるような気がするが、全体として、様々な児童書の優れた紹介になっている。数年前に全巻揃え、紹介されている本をいくつか子どもと読み、二年ほど前だっただろうか、お子さんが幼稚園年長くらいになった同僚の方に、「よかったら受け取ってください」とお渡しした。
 他に知られているものとしては『夜明けの図書館』があろうか。もっともこちらは、線の柔らかさが私の好みではなく、いまいち食指が動かない。「書物」が輪郭のはっきりした固体であるためか、どうもふわりとした絵柄とあわない、という思いがしてしまう。もっともこれは、繰り返すが、好みの問題だろう。
 少し変わったところでは『鞄図書館』がある。こちら、あらゆる書物を所蔵する鞄が図書館となっている、というシュールな前提のおかげで、どんな現実離れした話も然るべき場所を得ている。しかしこの漫画、完結しているのでしょうか? 

 

 図書館を扱った漫画について触れた以上、図書館を舞台とする、あるいは重要な要素とする小説をも考えてみたい。
 すぐに思いつく、そして私が思うにこのジャンルで圧倒的にトップにくるのは、もちろんエーコの『薔薇の名前』。そもそもこの小説では、書物が極めて説得力のある形で重要な役割を果たしている。これを越える「図書館小説」は、そうはないのではないだろうか?
 しかし、今回気づいたのだが、それ以外の「図書館小説」というと、思い浮かばない。「図書館 舞台 小説」といったキーワードで検索をかけると、なるほど、ある程度の小説は出てくるが、ぐっと心に来るものがない。紹介されているものの中で読了したものもあるが、「それほど図書館が前面に出ていたかしら?」と、首をかしげてしまうものも多い。
 もしかしたら、図書館というのは(ある意味「矛盾している」とも言えるが)小説の舞台になりにくい場所かもしれない。図書館はそもそも事件が起きにくい、というか、むしろ起きてもらっては困る場所の筆頭だからだ。「事件が起こる」としても、「これこれの本を探している」と訪れる人のために、僅かな情報(多くの場合、訪問する人の若き日の思い出)をもとに、司書が推理を働かせて件の本を見つけてくる、というパターンか、何かで人生に迷子ちゃんになってしまっている人に、人情と書物に通じた司書が本を薦める、というパターンが大半であろう。上に挙げた漫画にしても、このパターンのものが多い(行政組織としての図書館の触れるものも多く、それはそれで面白いが)。少し話が飛ぶようだが、図書館を舞台とした小説にはジュブナイル小説(若き日のうちに卒業すべきものとも言える)が多いのも、こうした観点から説明できるように思う。

 こちらをお読みの方で、「これは面白い図書館小説ですよ」というものがありましたら、ぜひぜひご教示ください。

 

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